教育ルネサンス/調べ学習で知る「日本」

   「日本」調べ学習で知る
〜2013年1月31日 読売新聞http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20130124-OYT8T00218.htmより


「日本のよいところ」を板書する子どもたち(昨年12月12日、横須賀市立神明小学校で)

神奈川県横須賀市立神明小学校の冬の朝。
5年1組の教室は活気にあふれていた。

 「日本のよいところは、マナーがよいところだよね」「よくない人も多いよ」。子どもたちが日本社会の印象を次々に黒板に書いていく。昨秋から、総合学習や道徳の時間を利用して取り組んできた「愛国心」の授業。12回目のこの日は総まとめだ。

 黒板の向かって右側に「心配なところ」、左側に「よいところ」、そして中央は「では、自分に何ができるか」。「悪いところは直していきたい」「よいところを自分の代で終わらせたくない」などの記述が並ぶ黒板を見つめていた担任の根本哲弥教諭(30)は、「勝負はこれから」とこぶしを握りしめた。

 教員になって8年目。学習指導要領に盛り込まれた「愛国心」を巡って、どう授業を進めるのか、無理をしてまで教えるべきなのかと悩んでいた。その背中を押したのは、数年前から指導を仰いできた日本道徳基礎教育学会の新宮弘識(しんぐうひろつね)会長(80)の一言だった。

 「子どもの内なる愛国心をどう引き出し、自覚させるか。それが教師の役目だ」

 ことさら国を意識しなくても、伝統や文化の中で子どもは生きている。理解が深まれば、よさを継承し、課題を解決しようとする心がわき上がるのではないか。根本教諭はそう考え、日本についての調べ学習をすることにした。

 数人ずつのグループに分け、テーマを決めて調査する。図書館に足を運んだり、親や周囲の大人にインタビューしたりするうちに、子どもたちの議論は熱を帯びていった。

 例えば、国語グループが、敬語には相手や物を思いやる心があることや、季節の彩りに恵まれた日本には豊かな四季折々の言葉があることなどを発表する。すると、今の言葉遣いの乱れを問う声が自然と出てくる。

 日本の産業を調べ、技術力が世界で評価されてきた歴史をまとめた社会グループは、資源の少なさや食料自給率の低さ、環境破壊の進行が心配だという意見も合わせて発表。調査の途中、伝統工芸品の美しさを知ってほしいと、児童の一人が「お母さんの宝物」という鎌倉彫を持参する。

 「学習に対する姿勢が、目に見えて違ってきた」と根本教諭は振り返った。

 そんな積み重ねの上に立った最後の授業。「日本をよい国にしたいね。でも同時に、ほかの国もよくしたいね」と締めくくった根本さんに、笑顔と拍手で応える子どもたち。「知らないことがいっぱいで面白かった」「またやりたい」と声を弾ませた。

 この日の授業は、研究授業として公開され、校外の教員も含め約20人が見学した。新宮会長は「この授業をモデルに、議論を広げていきたい」と話す。

 教育界に、「愛国心」の風が吹き始めた。(松本美奈、写真も)

 総合学習 自ら課題を見つける力、考える力や態度を育てる学習。学校や地域の実情に応じ、調査と野外活動などを組み合わせるなどして総合的、教科横断的な学びを設計する。小中学校では2002年度、高校では03年度の学習指導要領で完全実施された。基礎学力作りに役立たないなどとして、実質的に算数(数学)や国語、英語などの受験科目に振り替えている学校もある。
             *****
  
      手作り教材「心」引き出す

2006年12月、第1次安倍内閣が「教育再生」の要と位置付けた教育基本法改正で、教育目標に「我が国と郷土を愛するとともに他国を尊重する態度を養う」との文言が盛り込まれた。これを受け、08〜09年改訂の新学習指導要領では、「愛国心」を教える重要性に触れる記述が増え、伝統文化の尊重も強調された。

 しかし現実には、「愛国心は戦前の軍国主義につながる」などとする警戒感が、教員の間で依然として根強い。教員自身が学んでいないため、教え方が分からないという問題もある。地域や保護者の批判を恐れ、なかなか着手できないとの声もある。こうした中、子どもたちが自国を卑下したり、逆に排他的な自国賛美に陥ったりしないようにと、手作りの教材を使い、国を愛する心を引き出そうとする試みも始まっている。

 6年前にまかれた愛国心の種は、第2次安倍内閣の発足により、教育現場に根付かせることができるのか。各地の実践を紹介し、課題を考える。(小寺以作)